複雑な多谷ポテンシャルエネルギー面
上で生起する動力学諸問題


―― タンパク質とその周辺 ――


期間: 2005年3月14日(月)~16日(水)

場所: 神戸大学自然科学研究科総合研究棟3号館1階会議室 [地図]

※会場が変更になりましたのでお間違いのないようご注意ください.


 タンパク質が内在的にもつ「やわらかさ」は多様なダイナミクスの源である。タンパク質の自発的な折れ畳みや基質との特異的結合による構造変化はタンパク質らしさを端的に表す特徴的なダイナミクスであり、タンパク質が機能を発揮する上でも不可欠である。このようなタンパク質が集合してできる複合体においては、個々のタンパク質の大規模な構造変化が動的に連携することにより、分子モーターに代表される生体ナノマシンという精緻なダイナミクスへと進化する。また、タンパク質間の相互作用は複雑な時空間ネットワークを形成しており、高次のネットワークダイナミクスが実現され、細胞における情報伝達の基盤となっている。このようにタンパク質が産み出すダイナミクスは細胞レベルにまで達し、生命現象へと結実する。

 本研究会では、タンパク質に起原をもつあらゆる階層のダイナミクスを原子レベルから細胞レベルまで幅広く議論の俎上に載せ、これらのダイナミクスの背後に潜む原理や相互の関係性などについて考えたい。そのため、タンパク質のダイナミクスを研究する実験家・理論家はもとより、化学反応論や非線形力学・非平衡統計力学など関連する分野から幅広く参加者を募り、それぞれの研究分野からの視点でお互いの意見をぶつけ合うことで異分野間の相互交流を積極的に推し進めたい。

 ヒトゲノムの解読がほぼ終了した今、人々の興味は遺伝子そのものから遺伝子の産物であるタンパク質へと移りつつある。タンパク質の構造決定が最大の課題と認識され、大規模なプロジェクトが進行しているが、タンパク質がもつ絶妙な動的側面に関しても、実験・理論を問わず、種々の手法を駆使した多角的なアプローチによって精力的に研究が進められている。特に、近年の一分子計測をはじめとする数々の高度な実験手法の確立によって原子レベルにせまる微細な現象を追跡することが可能となり、タンパク質のダイナミクスに関して膨大なデータが我々にもたらされ、新しい知識が続々と蓄積されつつある。

 しかし、これらの実験データに含まれているダイナミクスの情報を取り出すことは時としてそれほど容易なことではなく、データの洪水の中に埋もれたままになっているものも少なからずある。このような取りこぼしを減らし、実験データから可能な限りの情報を抽出するために、分子動力学法をはじめとする各種シミュレーションとの連携や時系列解析をはじめとする解析手法の充実が早急に望まれるところである。また、多様な実験手法があるとはいえ、すべての時空間スケールをカバーできるわけではなく、実験データとして入手できる情報にも限りがある。したがって、それを補うためにも分子動力学シミュレーションをはじめとする理論的な貢献が必要不可欠であり、実際、大規模な全原子計算や粗視化モデルによってタンパク質のダイナミクスが明らかにされつつある。

 一方、タンパク質のダイナミクスは大自由度系としても非常に魅力的な研究対象である。タンパク質を力学系として捉えてみると、「多くの局所安定点を持つ複雑な multi-basin ポテンシャル」によって考えることができる。よって、タンパク質のダイナミクスは多数の極小点を経巡るカオス的な運動が支配的であると考えられ、調和振動子的な描像はもはや意味をなさないと思われる。かといって、1分子であるが故に平衡統計力学的な記述は必ずしも成立するとは限らず、その運動に動的相関が存在することが容易に想起される。そして、このような状況こそがタンパク質らしいダイナミクスを産み出していると思われる。また、タンパク質間の相互作用ネットワークに関しても、その構成要素は大きく異なるが、ダイナミクスの複雑さの点では決して引けを取るものではない。したがって、非線形力学・非平衡統計力学・化学反応論などの既存の枠組みを単に適用するだけでなく、対象とする系の特性に応じて拡張しつつ、タンパク質が産み出すダイナミクスを各理論の言葉で理解するという試みは挑戦的であり、それぞれの分野の発展に大きく寄与することが期待される。

 以上のように、タンパク質が産み出す多様なダイナミクスを理解するには、既存の学問的枠組みを越え、あらゆる知識を総動員して望む必要がある。そのためには、多くの関連分野の研究者が一堂に会し、各分野における研究の現状や最先端の手法、問題意識などを共有することが肝要であり、さらにその内容について徹底的な議論を行うことが求められるであろう。これを実現する場として本研究会を企画した。既存分野にとらわれない多様なバックグラウンドをもつ研究者に議論への参加を呼び掛けたい。
世話人  小松崎民樹 (神戸大)  
戸田幹人 (奈良女大)  
渕上壮太郎 (横浜市大)

プログラム

―― 3月14日(月) ――

13:00-13:30 Opening Remark
小松崎民樹(神戸大理)
13:30-14:30 細胞内情報伝達システムの蛋白質ダイナミクスとキネティクス
佐甲靖志(阪大院生命機能)
14:30-15:30 細胞のゆらぎから何がわかるか?
柴田達夫(広大院理)
休憩(15分)
15:45-16:45 蛋白質の折り畳みダイナミクス/バルク観測からの知見と一分子観測の可能性
高橋聡・木下雅仁(阪大蛋白研・京大院工)
16:45-17:45 アミノ酸配列からのタンパク質disorder領域の予測
石田貴士(東大院農)
休憩(15分)
18:00-19:30 ポスター発表 (with Beer & Snack)



―― 3月15日(火) ――

10:00-11:00 一次元格子熱伝導系における定常測度の漸近挙動と系の対称性
上田 彰(大阪府大工)
11:00-12:00 ゆらぎによる細胞状態遷移について
古澤 力 (阪大院情報)
昼食休憩(1時間)
13:00-14:00 ポスター発表
14:00-15:00 F1-ATPase変異体の1分子回転解析:ATP-binding dwellの長さがcatalytic dwellに与える影響
島袋勝弥(東工大資源研)
15:00-16:00 バイオナノマシンF1-ATPase の回転メカニズム
古賀信康(神戸大院自然科学)
16:00-17:00 Go++ で Go Go --- ミオシンの構造変化シミュレーション
高城史子(阪大サイバー)
休憩(15分)
17:15-18:15 ランジュバン系の非平衡状態におけるエネルギー流と揺動散逸関係の破れとの関係
原田崇広(京大院理)
18:15-19:15 Geometrical Structure buried in the phase space of Stochastic Structural Transition: Perspectives from Time Series Analysis
Chun Biu Li(神戸大理)
19:30- 懇親会



―― 3月16日(水) ――

10:00-11:00 大自由度Hamilton力学系における集団運動
森田英俊(東大院総合文化)
11:00-12:00 Investigating Vibrational Energy Relaxation and Collective Motions in Proteins
藤崎弘士(ボストン大化学)
昼食休憩(1時間)
13:00-14:00 蛋白質の構造変化過程の自由エネルギーランドスケープ理論:統計力学模型によるアプローチ
伊藤一仁(名大院情報科学)
14:00-15:00 タンパク質のテラヘルツ時間領域分光
山口真理子(阪大レーザー研)
休憩(15分)
15:15-16:15 タンパク質の構造変化ダイナミクス:基質との相互作用による特異的運動の実現
渕上壮太郎(横浜市大院総合理)
16:15-17:00 Discussions
Leaders:木寺詔紀(横浜市大院総合理),小西哲郎(名大理)
17:00-17:15 Closing Remark
戸田幹人(奈良女大理)

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