複雑な多谷ポテンシャルエネルギー面上で生起する動力学的諸問題・第二回

 

日時

2001年11月19日(月)~ 21日(水)

場所

奈良女子大学理学部A棟理学部会議室   地図

 

世話人

戸田 幹人(奈良女子大学)
小松崎 民樹(神戸大学)

 

研 究 会 の 主 旨

 

非線型物理と化学反応論の境界領域において、新たな発想と研究方法の開拓を目指すべく、上記の表題の下に研究会を企画している。本研究会では、(1)多自由度カオス系のダイナミックスに対する研究の発展、(2)それに基付いた非平衡統計力学に関する新たなアプローチの展開、(3)非平衡統計現象の典型例である化学反応論における理論実験の両面の進展、の三点を目標に、数学・物理・化学・生物など、幅広い分野の研究者の交流をはかるために行うものである。

我々はここで、広義の意味で「化学反応」という用語を用いており、一般に複数のボトルネックを越えて、異なる安定状態へ至る過程全般を指している。この時、反応過程論において、「局所平衡の仮定」を越える新たな方法論を、力学系カオスの研究の今後の発展に求めることが、特に重要であると考えている。その理由は、次の点にある。「局所平衡の仮定」は、例えば、複数のサドル(ポテンシャルエネルギー面上の鞍部点)を通過する運動を考えた場合、隣接したサドルを通過する運動の間に、ダイナミックスの記憶がないことを意味する。しかしながら、蛋白質の折れ畳みの様に、多数のサドルが関与する反応の場合、「局所平衡の仮定」と「機能の発現」との間には、大きな矛盾が存在する可能性がある。何故なら、多数のサドルを越えていく過程が、何らのバイアスも無いランダムなポテンシャル面上における、互いに独立な確率過程であるとすると、蛋白質が折れ畳むのに必要な時間は、天文学的な長さになるからである。

この問題、即ち、“なぜ効率良く折れ畳み、天文学的な数の安定状態の中から、一義的に最安定構造へ辿り得るのか”という問題は、現在、折れ畳みのエネルギー地形が、単にランダムなポテンシャル面ではなく、“ファネル(漏斗)型”構造を取っているためである、という解釈がなされている。しかし、折れ畳みのダイナミックスは、漏斗型エネルギー地形上をランダムに滑り落ちていくような(単純な)描像では解釈しきれない部分が多いことが、最近指摘されている。その場合、複数のサドルを越えていく過程の間に、確率論的な独立事象としては捉えきれない「動的な相関」が存在し、それが、「折れ畳みの効率の良さ・頑健さ」と深く関連しているのではないか、という仮説が考えられる。特に、アミノ酸残基の総数が増大すればするほど、考え得る状態空間は急激に増大するため、単純なファネル型描像(ファネル型ポテンシャル地形上の乱歩問題)では捉えきれない、(限定された)ダイナミカルな経路が、生体高分子としての折れ畳みの機能(すなわち、効率性・頑健性)に重要な役割を果たしているという可能性が考えられる。このように考えると、分子レベルにおける「機能の発現」と「局所平衡の破綻」の間には、本質的な関係があるのではないか、という予想に導かれる。

他方で、「全系から、どのようにして有効な自由度を切出すのか」という問題は、非線型物理・非平衡統計力学の中心的な課題に他ならない。従って、蛋白質の折り畳みに典型的に見られる問題、即ち、蛋白質の折り畳みのダイナミックスにおいて、どのような自由度が重要なのか、そのような自由度の「力学的」な特徴は何か、蛋白質の折り畳みにおいて、その周囲にある水分子のダイナミックスは、どのような役割を演じているのか、その役割を、単なる「熱浴」として扱って良いのか、等の問題を、多自由度カオス系の課題として研究していく必要性がある。従って、本研究会では、統計力学における確率概念の適用を問い直すと共に、ローレンツ気体を念頭においた輸送過程論や、局所平衡とダイナミックスを接ぎ木しているに過ぎない定常非平衡論を越える着想を、多自由度カオス系の研究の中に探っていきたい。

蛋白質の折り畳みは一例に過ぎない。より一般的に、生体高分子や超分子に見られる「機能の発現」において、「局所平衡の破綻」が本質的な寄与をしているのではないか、という問題意識の下、高分子や超分子における理論実験両面の研究と、多自由度カオス系の研究との接点を探り、両者の有機的な関連をはかっていく。

以上に述べてきた世話人からの問題提起をたたき台とし、異なる研究領域との交流の中から、既成の枠組みを越える研究の展開を促進していくことが、本研究会の主旨である。そのため、積極的に「自分の研究分野からの視点」で、議論に加わることのできる人達の参加を呼び掛けたい。研究会は、招待講演者による講演、および一部の参加者によるポスター発表という構成にしたいので、参加希望者に、あらためてこちらからポスター発表を依頼する形を取る予定である。

なお、本研究会はニ回目である。一回目は昨年11月13~14日に奈良女子大学で行われ、その内容は物性研究76(1),45-143(2001)にまとめられているので、参照されたい。

 

プログラム

名前のところをクリックすると、各話題提供者の予稿ないしは研究紹介がダウンロードできます。

(予稿が届き次第、順次、アップロードないしはリンクしていきます)

 

11月19日(月)

13:00~15:30座長 戸田幹人氏(奈良女子大学)

13:00 ~ 14:15

小松崎 民樹 氏(神戸大学)
「「揺らぐ」世界における力学的決定性 ─なぜ化学反応系は峠を越えるのか?─」

14:15 ~ 15:30

水谷 泰久 氏(神戸大学)
「機能に関係したタンパク質の構造揺らぎ」

休憩(15時30分 ~ 16時)

16:00~18:30座長 中川尚子氏(茨城大学)

16:00 ~ 17:15

有賀 克彦 氏(相田ナノ空間プロジェクト)
「超分子および超分子集合体における認識と応答 -分子レベルの現象からマクロな出力応答への橋渡し-」

17:15 ~ 18: 30

笹井 理生 氏(名古屋大学)
「ソフトマシンとしての蛋白質ーアクトミオシン系の問題」

ポスター発表(19時 ~21時予定 )

松永 康佑 氏(神戸大学)

「蛋白質折れ畳みの階層的規則性」

山口 義幸 氏(京都大学)

「二次相転移のリアプノフ解析」

茶碗谷 毅 氏(大阪大学)

「不変量を持つ散逸系―――反対称相互作用をもつレプリケーター系のダイナミクス」

後藤 振一郎 氏・野崎 一洋 氏・山田 裕康 氏(名古屋大学)

「ハミルトニアン振動子系における変調不安定解の相空間構造」

松本 正和 氏(名古屋大学)

「水の結晶化ダイナミックス」

清水 寧 氏(関西学院大学)

「小さな原子クラスターの相空間構造と統計性」

渕上 壮太郎 氏(東京大学)

「古典力学から見た分子のBorn-Oppenheimer描像」

水上 卓 氏(北陸先端大学)

「レチナール蛋白質の低温分光とSVD解析-きちんと測ると揺らぎが見える-」

奥島 輝昭 氏(都立大学)

「多自由度系の量子動力学:古典動力学との比較」

安池 智一 氏(東京大学)

「強光子場中に現れる新しい電子状態 -カオス的散乱の観点から-」

高見 利也 氏(分子科学研究所)

「断熱基底による非断熱遷移描像からの脱却」

篠原 晋 氏(早稲田大学)

「非線形格子振動における誘導現象:局所リャプノフスペクトルによる解析」

森田 英俊 氏(東京大学)

「多自由度Hamilton系のエネルギー緩和過程に見られる間欠的ボトルネックと内部状態」

 

11月20日(火)

9:00~11:30座長 山口義幸氏(京都大学)

9:00 ~ 10:15

小西 哲郎 氏(名古屋大学)
「ハミルトン系における遅い運動」

10:15 ~ 11:30

相澤 洋二 氏(早稲田大学)
「N体ハミルトン力学系における普遍則と未解決問題について -- 緩和、揺らぎ、クラスター形成 -- 」

昼食・休憩(11時30分 ~ 13時)

16:00~18:30座長 時田恵一郎氏(大阪大)

13:00 ~ 14:15

西浦 廉政 氏(北海道大学)
「散逸系における遷移ダイナミクス」

14:15 ~ 15:30

中川 尚子 氏(茨城大学)
「分子モーターにおけるエネルギー変換機構(力学的モデルの立場から)」

休憩(15時30分 ~ 16時)

16:00~18:30座長 清水寧氏(関西学院大学)

16:00 ~ 17:15

小室 元政 氏(帝京科学大学)
大域結合系におけるカオス的遍歴の発生機構」

17:15 ~ 18:30

首藤 啓 氏(都立大学)
「内部自由度を持つハミルトン系について」

懇親会(19時 ~ )

 

11月21日(水)

9:00~11:30座長 松本正和氏(名古屋大学)

9:00 ~ 10:15

時田 恵一郎氏(大阪大学)
「はい、複雑な生態系が安定な場合はあります ~Mayのパラドックスへの解答~」

10:15 ~ 11:30

小野 直亮 氏(京都大学)
「分子から細胞への進化:人工化学反応系によるシミュレーション」

昼食・休憩(11時30分 ~ 13時)

16:00~18:30座長 小松崎民樹氏(神戸大学)

13:00 ~ 14:15

伊藤 正勝 氏(分子科学研究所)
「Tsallis統計と化学反応における非平衡性」

14:15 ~ 15:30

戸田 幹人 氏(奈良女子大学)
「多谷遷移における動的相関を考える」

 

問い合わせ先:

戸田 幹人(奈良女子大学理学部物理科学科複雑系の物理学研究室)
Tel&Fax:0742-24-3383
mailto:toda@ki-rin.phys.nara-wu.ac.jp